ただただ【いい人!】隼賢介エピソードvol.1

ボディメンテナンス担当

隼賢介

shape of heart
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目次

隼賢介さんのエピソード集です(読みたいタイトルをクリックしてください)

2007年6月12日

賢介の学生時代の友人が、
賢介と付き合い始めた西谷有希子に語った言葉

登場人物

隼賢介
(24歳当時)


確かあれは賢介が運転免許を取りたての頃だね。

二人でドライブに行ったんだ。

郊外の細い道を走っている時、右の歩道には、杖をついたおじいさんがゆっくり歩いていてね。
ちょうど追い越す直前に、おじいさんがバランスを崩して転んだんだよ。

助手席にいた俺は、誰よりも早く叫んださ。賢介に。

「ばか!お前は運転していろよ!」

有希ちゃんも、もう分かるよね。
そう。賢介がハンドルを離して、おじいさんに両手を伸ばしていたんだよw

危うく事故るとこだよね。

そう言えば…、賢介は、バスケのフェイントに絶対引っかかることで有名だったよなぁ。
あいつはいつだって、頭より体が先に動くんだよ。

うん、でも良かった! これからは有希ちゃんがついてくれるんだね。

ご苦労さまw

そしてよろしくお願いします。

隼賢介
2007年7月4日

隼賢介と西谷有希子の、結婚1か月前の頃の会話

西谷有希子

ねぇ、賢ちゃんて、裏の顔ないの?

隼賢介

ごめん。二つも使うのはちょっと面倒くさいんだ…

西谷有希子

賢ちゃんて、いつも損してばかりじゃない?

隼賢介

アハハ。文系で、計算が苦手というか…

西谷有希子

もしかして賢ちゃんて、嘘を全くつけない人なの?

隼賢介

事実を話すだけなら、他に何も覚えておかなくてすむから楽なんだよねー

西谷有希子

賢ちゃんて、誰に対しても寛容よね

隼賢介

Can・yoo? ごめん日本語でヨロシクぅ

西谷有希子

あ、もしかして私のこといい人だと思ってる?

隼賢介

もちろん!

西谷有希子

ふぅ…。賢ちゃんは見る目ないわよー

西谷有希子

【でも、人を見る目がない人こそ、いい人の証…って麻衣子も言ってたっけ…】

隼賢介

有希ちゃんどうしたの? そんな真剣な顔して

西谷有希子

【とにかく、これは私が舵をとらないとダメね…】

隼賢介

ゆきちゃん?

西谷有希子

賢ちゃん、ちょっと私達の将来について、大事な話があるの!

隼賢介

-f i n-

ニックフォール

いい奥さんと一緒になれてよかったのう

矢祭麻衣子

賢ちゃん、私の大切な有希子を泣かせたら…分かってるわよね?


1987年4月4日

愛の中で育ってきた隼賢介

登場人物

隼賢介
(幼少期)

隼賢介

隼賢介。40歳。

現在、妻と息子の3人暮らし。

ネッキャンにおいては「3大菩薩の長男」と呼ばれている
(一部からは超天然とも呼ばれているが…)

彼をよく知る人間は、彼をさらに知りたがることになる。
どうやったら彼のように、優しくて慈悲深い人間になれるのかと。

答えは、彼だけを観察しても出てこない。

賢介の過去、即ち、育ってきた環境をひも解く必要があった。

隼賢介

誰しも2歳から3歳にかけては、自分が皆の中心で、世界は自分の思い通りになると勘違いをする時期がある。

当然、賢介にもあった。
幼稚園の年少クラスの頃だろう。

上手くいかないと、かんしゃくを起こす回数が急に増えた。

ただ…、その第一反抗期は長く続かなかった。

ネットキャンバス

我慢を強いられたわけではない。
諭されたわけでもない。
怒られたわけでもない。

日々、両親から感謝の気持ちを植え付けられただけだった。

例えば日常ではこんな感じだ。

 「おはよう。洋服屋さんのおかげでお服が着れるね。ありがたいね」

「おーい、お母さんが朝ごはん作ってくれたぞ。感謝して食べような」

「やったね!バスがあるおかげでお出かけできるわよー」

「ほら、店員さんが賢介の好きなポテトを持ってきてくれたぞ。一緒にお礼を言おうな!」

「お家があるおかげで、冷たい雨も強い風も大丈夫だね。良かったね」

「賢介、電気のお陰で、夜もお母さんに絵本を読んでもらえるぞ。ホントありがたいなぁ…」

他にも数え上げればキリがない。

これらの言葉によって、賢介は自分が世界の中心にいるどころか、ちっぽけで何もできない存在であることを知った。

そして周りの助けで生きられることに感謝するようになり、いつの間にか第一反抗期も消滅したのだった。

隼賢介

年中クラスに上がる4歳になると、誰しも世界が少しずつ広がっていく。
家族だけでなく、友達の存在が、いよいよ無視できなくなるのだ。

幼稚園には色々な子供達が集まる。
意地悪な子もいれば、賢介の優しさを否定する子もいた。

賢介はひどく混乱した。

Aという親切をすれば、Bというお礼が返ってくるはず…。

そんな「賢介方程式」が崩れ去ったからだった。

ネットキャンバス

困った賢介はよく母親に尋ねた。

「たかしくんが落としたクレヨン、拾ってあげたのに、何も言われなかったんだよ」

母親はまずは誉めた。

「えらいわね。その優しい気持ちを忘れないでね」

「うん」

「賢介は、お礼を言われなかったら、もうやりたくないの?」

「うーん…」

「もし賢介が、たかし君のクレヨンを拾わないで無視したら、賢介の気持ちはどんな感じ?」

「ちょっと気持ち悪いかなぁ」

「そうね。お母さんもお父さんもそうなのよ。だからこれからも、自分のために拾ってあげてね」

「うん!わーっ!何かスッキリしたー!」

賢介が「情けは人の為ならず」という言葉と出会うのは、まだまだ先の話だ。

出会ったところで、誰しもそれを理解して実践するのは難しい。

だが彼は、この歳でその真意を会得したのだった。

隼賢介

賢介が年長クラスに上がった5歳の時。

庭のお花に水をあげる役割が父親から、水槽のメダカのお世話をする係が、母親からバトンタッチされた。

「お花は言葉が通じないけど、賢介を必要としているんだぞー」

「メダカさん、良かったわねー。賢介のおかげで元気に生きられますよー」

両親の応援のおかげもあって、賢介は自分の役割を全うした。

もちろん毎日の作業の中では「眠いし、めんどくさい」時もあった。

それでも最終的には、自分の欲求を我慢してでも行う価値のある「思いやり」を知った。

半人前の自分でも、弱きものの面倒を見てあげる充実感、命を生かしてあげる喜びを味わうことができた。

そう。賢介はこのあたりから、いよいよ隼賢介らしくなってきたのだった。

隼賢介

ほどなくして、賢介の優しい気持ちは、少しずつ外の広い対象にも向けられるようになっていった。

 もちろん最初は両親の誘導ありきだ。
賢介は、常に両親に導かれていたのだった。

老人が道で止まっていれば、「賢介、おばあさんが進めずに困っているね。どうやって助けようか?」

強い風が吹いたら、「うわー、お外にいる人は大変だね。賢介のお友達も家の中だったらいいね」

救急車が通ったら「誰かけがをしたのかな、大丈夫かな?」

などなど。

おかげで賢介自身も、他人の置かれている状況を想像する癖が自然とついた。

例えば、幼稚園の先生も気付かない、お友達の僅かな様子の変化。

「A君、なにか悲しいことがあったのかなぁ…」

「B子ちゃんはそれ、嫌がっているよ」

皆に、優しく話しかけたり、なぐさめたり、先生に状況を教えてあげたりするので、驚かれ感心された。

そしてこれは幼稚園に限らず、この先もずーっとずーっと続くことになる。

今後、賢介の通信簿には「人を思いやる優しい心の持ち主です」「〃」「〃」が、漏れなく書かれ続けていくのだった。

通知表

賢介の両親は、常に我が子に様々な経験をさせたいと考えていた。

能力が足りなくても、経験して学習することで、より良く生きる知恵を身につけられるからだった。

ただ幼稚園児の賢介においては、「かわいい子には旅をさせる」にはまだ早く、「人を以て鑑となす」理解力もなかった。

そこで母親がとったのは、「読み聞かせ作戦」だった。

読み聞かせにはたくさんの利点があるが、母親の狙いは、よりたくさんの人物の人生を経験させることだった。

そのため、ファンタジー系よりは偉人伝を好んで選んだ。
主人公の人生を読み聞かせるだけでも、経験値になると考えたからだった。

幼い賢介は「読み聞かせ」の時間が大好きだった。
毎晩、主人公に成りきって喜んだり悲しんだりした。

しかし、小さな障害物もあった。
母親が時々、読むのを止めるからだった。

声のトーンも変わり、「この子は主人公の〇〇さんに断られて、どう思ったんだろうね?」と脇役である人間の気持ちも想像させたのだった。

物語を止められる賢介は、最初の頃こそ嫌がった。

「そんなのいいから早く読んでー!」と。

ただ母親の言う通り、周りの状況が見えてくると、話がさらに面白くなることに気付いてからは、文句を言わなくなった。

そんな読み聞かせは、3歳から6歳まで、ほぼ毎晩続いた。

つまり賢介は、小学校に上がる頃には、物語の登場人物100人以上の人生を、すでに体験していたことになる。

本

どの親も一度は考えるものだろう。

「子供を上手く動かすには、どうすればいいのか?」と。

テクニックとしては「アメとムチ」がある。
そして子育てならば「ほめ方」と「叱り方」に集約されるだろう。

ご多分に漏れず、賢介の両親も、誉めたり叱ったりしてきた。

全員にとって幸運だったのは、両親が同じ基準を持っていたことだった。

賢介にとっては誉められるポイントと叱られるポイントが一貫しているので、戸惑うことがなかった。

さらにそれは、賢介の友達に対してもブレなく行われたので、全面的に信じられた。

ただ、親の愛情を独り占めしたい年頃でもあった。
時には嫉妬もしてしまう。

「さっきミィちゃん、お婆ちゃんに手を差し出してあげたのよ、偉かったわねぇ」

「そんなの当たり前じゃん!僕だってできたもん!」とかわいらしく拗ねてしまうこともあったのだ。

隼賢介

基準は同じでも、両親では叱り方に違いがあった。

「コラッ!」

父親の強い口調に、幼い賢介はよく身体を震わせた。

「賢介…お父さんは賢介を怒ったわけじゃないぞ。もちろん賢介を嫌いなわけでもない。お父さんは賢介に悪い事させた悪魔を叱ったんだ」

「悪魔?」

「あぁそうだ。悪魔よ、去れっ!」

「えっ?」

「ほーら、もう悪魔は逃げていったから安心していいぞ。全くこんなかわいい賢介にあんな悪いことをさせるとは、とんでもない奴だ」

「あははっ!おもしろーい!」

こうして翌日から、賢介の口癖に「悪魔よ去れっ!」が加わった。

幼稚園では、それを聞いていたお友達も面白がり、皆こぞって使いだした。

ただ、皆は「悪い人」と「悪いこと」の区別が分かっていない。

叱ってきた先生に向けて「悪魔よ、去れっ!」なので…、状況はさらに悪化したw

幼稚園児

一方、母親は、叱るというよりは、悲しむタイプだった。

ある日、賢介がスーパーからお菓子を取って、ポケットに入れて帰ってきたことがあった。

初めてのお使いどころか、初めての万引きとなる…。

賢介は、自宅でそれを見つけた母親から問いただされた。

「それ、取っちゃダメって、分からなかったの?」

「分かっていたけど、どうしても欲しくなっちゃって…」

それを聞いた母親が泣き出した。

「賢介はいい子だけど神様じゃないの。お母さんも残念ながら神様じゃない。だから時々、こんなダメなことをしちゃうのよ。悲しいことだけどね…」

賢介は心底、自分がの過ちを悔やんだ。

「ねぇママ、何で僕は神様になれなかったんだろう? 神様だったらママを泣かせないのに…」

「いいのよ。お母さんは神様になった賢介より今の賢介の方が大好きだから。お母さんこそ賢介にもっとよく教えてあげられなくてごめんね」

「ママ大好きだよ」

「ありがとう。これからもお互い悪いところを直していこうね」

スーパーへは、すぐ弁償に行き、2人で一緒に謝った。

隼賢介

悪いことは悪い。ただしその人自体は無条件に許す。

それが隼ファミリーのやり方だった。

果たして今の日本において、どれだけの人ができるだろう?

無条件に許す…。

それはもはや愛なのだ。愛がなければ許せないのだ。

賢介が許せる側の人間になれたのは、間違いなく両親の影響だろう。
特に中学から成人にかけては、よく周りから呆れられたり感心されたものだった。

「賢ちゃんってホントお人よしだよねー」

「賢介、よくあいつのこと許したなぁ…」

賢介に人を許せる力がついたのは、自身が長い間、許され続けてきたからに他ならない。

即ち、愛され続けてきたからに他ならない。

隼賢介

賢介は、両親の一貫した育て方により、今の隼賢介になれた。

確かに、そこには様々な理論やテクニックがあったのだろう。

それでも根源的かつ最も大切なのは、親の姿だった。

「子は親の背中を見て育つ」

何より親が最大のお手本であり、親をモデルにして子供は自分を動かす。

仮に、賢介の両親が口だけの親であれば、賢介は賢介になれなかっただろう。

賢介に努力をした記憶はないし、いい人になろうと意識したことすらない。
お手本の行動を親がとっていたからこそ、安心して賢介は会得できたのだ。

賢介の秘密は両親にあり。
それは西谷有希子も強く感じたことだった。

後の妻となる有希子においては、賢介の両親と交流してから、安心して結婚を決めたのだった。

隼賢介の両親

隼賢介40歳。

今や年老いてきた両親がやってきたことを、少しずつ引き継いでいる最中だった。

3年前からは、隼鍼灸整骨院の院長に。
2年前からは、地域イベントの運営ボランティアに。
最近では、地域の環境浄化活動に。

そして何より、息子の教育に。

父親は、今でもしみじみと賢介に語ることがある。
「判断に迷ったら、皆に貢献できる方を選べばいい。自分より家族、家族より仲間、仲間よりも社会全体。それで大きく間違わずにすむんだから、この方程式はありがたいものだ…」

一部からは偽善家族と陰口を叩かれても動じなかったのは、この信念が根底にあったからだろう。

隼賢介

隼栄昭と隼裕美子。

賢介の両親は、信念と愛を持って賢介を育てあげその役割を果たした。

今はもう、孫である翔太をただただ猫かわいがりしているだけだが、昔は不安になることも、自分達のやり方が正しいのか分からなくなる時もあった。

それは当然とも言える。

子育てはどうやっても、親が操作的になる。
不完全な自分達が白紙の子供に色を付けていくなど、冷静に考えれば空恐ろしい。

幸い賢介は、両親の望み通り、思いやりのある優しい人間に育ったが、両親はいつも絶対の自信を持てずにいた。

そんな中…。

賢介が小学5年生の春だった。

もはや賢介は覚えていないのだが、両親にとっては忘れられない、救いのようなエピソードが起きた。

隼賢介の両親

その日、授業参観において、将来の夢を発表する場面があった。

周りの子が「サッカー選手」や「アイドル」や「お医者さん」だったのに対して、賢介の発表はとても地味なものだった。

簡潔に言えば、「職業はこだわらず、お金もそれほど欲しくなく、平凡に暮らせればいいですー」といった内容だ。

見栄も野望も欲望もない。

賢介らしいと言えばそれまでだが、先生ですらアクビをしそうな面白みのない発表が淡々と続いたのだった。

ただ最後の最後に、「絶対に譲れない条件があります!」と付け足した。

「僕は、大きくなったらお父さんみたいになって、お母さんみたいな人と結婚します!」と。

周りは一瞬静まり、その後、微笑ましい小さな笑いが教室全体に広がった。

賢介は、ただポカンとしていた。

そんな中、自分達の方向性が間違っていなかったことを確信した賢介の両親だけが、大号泣していたのだった。

隼賢介の両親

-f i n-

出雲美紀

愛。愛しかないお話でしたぁ

矢祭麻衣子

迷ったら多くの人に貢献できる方へ…か。確かに私の黒歴史は、99%エゴが絡んでいたような…

佐々木拓海

僕は最近分かってきたんです!天然の人に悪人はいない!


家族の理解

2022年7月14日

当時の日記より


今日、いつもお世話になっているBサインさんから、逆に変な注文を受けました。

詳細は分からないのですが、新しくサークルを作るのでその仲間になってほしいとのことだったと思います。

斎藤千歳 ネットキャンバス

もちろん皆さんの仲間に入れるのは嬉しいのですが、問題は、私に何ができるのかという点と物理的に難しいという点でした。

多種多様なメンバーが集まることで生み出されるアイディアやエネルギーと言われても、平凡な私が入って足を引っ張るのは気が引けますし、今まで以上に他のことに時間を取られると、家族に対して申し訳が立たないのです。

隼けんすけ

私は対外的には「いい人」で通っているのかもしれませんが、家族にとっては「いい夫」や「いい父親」ではないと思います。

仕事に割く時間だけでなく、ボランティアの数も増えている現状を鑑みれば、ただでさえ少ない家族サービスがさらに犠牲になるのは間違いありません。

これまで妻や子供から苦情を受けたことはありませんが、私の良心がブレーキをかけるのです。

隼けんすけ

その場で断るのは失礼かと思い、斎藤さんへの返事は保留してありますが、私の中では「NO」に傾いています。

これから家族に話してみますが、今回だけは家族の希望を最優先に決断ですね。

-f i n-

斎藤千歳

無茶な注文、すみませんでした。
ご家族の皆さんにも、厚くお礼を申し上げます

渡辺皇海

俺も先生の貴重な時間をたくさん奪ってきました。先生と家族の方に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで一杯です

隼けんすけ

<隼の後日談>

妻からは、「最初から分かって結婚している。その活動で得たものを私達に還元すれば、それが家族サービスよ」と言われました。

息子からは、「最初から分かったうえでお父さんを選んで生まれてきたんだよ」と言われました。

ちょっとだけ面白くて、涙が止まりませんでしたね。


2022年10月9日

隼鍼灸整骨院に通う、90歳を迎えた患者さんの夜

思えば、ロクな人生ではなかった。

呪われたように憂鬱な毎日のなか、私は今も隼先生を信用できないでいる。

これまで優しい男を信用しては、裏切られ続けてきたからなのか。

甘い言葉で、身も心も小さな財布でさえ吸いつくされてきたからなのか。

ネットキャンバス

先生の噂を聞いて通い始め、評判通りのいい先生なのは分かった。

ただ、

この先生もいつか必ず優しくなくなり、牙を剥く時がくる。そう確信している。

男はある瞬間を境に豹変してしまう。その心身に深く刻み込まれた傷は、先生と出会って8年経った今も変わらない。

今日も痛い体をいつまでも摩ってくれた。
体を抱え上げて車椅子に乗せてくれた。
お土産だよと笑いながら、ミカンを2つくれた。

それでも、明日はどうなるか分からない…。

そっと寝室の電気を消した。ようやく長い一日が終わるのだ。

しかし、今日に限ってなかなか寝付けない。

手を合わせ、必死に込み上げてくる感情に抗った。

いつしかカラカラの体から涙が溢れ出てきた。
先ほどから、ずっと必死に呟いていたことに気付いた。

ネットキャンバス

「願わくば…、こんな意地の悪い私の最後の願いが叶うなら…、どうかお願いします!どうかこのままで…、先生が豹変していないこのままで…、私の寿命のほうを先に尽きさせてください。それで私の人生、幸せに終われる!」

本当は隼賢介が豹変しないと分かっている。
分かっていても、そう言い切れないことに対する彼への謝罪であり、感謝の叫びである気がしていた。

-f i n-

矢祭麻衣子

強く深く刻み込まれたトラウマ。賢ちゃんなら救えるはず!

高見宗太郎

はい。あと少しだと思います


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