【壮絶なる復讐者…クールビューティ】伊藤明日香エピソードvol.1

shape of heart 

伊藤明日香
（２０歳当時）

「ハハッ…ついに貯まったんだ…」

伊藤明日香は1人呟いた。

寮の１人部屋の薄暗いキッチンだ。
誰にも見られることはない。

目の前には透明なウォータータンク。
たった今、５リットルの水が満タンに貯まったばかりだった。

持ち上げてみると、さすがに重たい。

その重みも大切に抱え込みながら、ゆっくり風呂場へと運んだ。

風呂場で何かをするわけではない。ただそれを置くだけだった。

帰りには、代わりとなる次のウォータータンクをキッチンへと持ち込んだ。

その「空」をシンク内の蛇口の真下にセットした。

いつも通りの作業。
わずかに蛇口を捻ったが、なかなか難しい。

出るか出ないか…、そのギリギリのところに合わせなくてはいけなかった。

「ピチョン……ピチョン」

ようやく水滴が、静寂という間隔を空けながら、タンクへ僅かに滴り落ちていった。

異様な光景かもしれない。
しかし毎晩しばらくこれを眺めるのが日課だった。

この一滴が、いつしかびっくりするぐらい貯まっていく姿だけを、生きる勇気としていた。

これを始めたのは１年前。

『伊藤、お前は焦りすぎだ。もう少し心を静めろ。ちょっとずつでも努力を続ければ、必ず大きな結果につながるから…』

職場の上司である泉獅子王丸に、そうアドバイスを受けてから、この日課を続けてきた。
毎日ずっと。

【不可能と思われる野望も、努力を続けていけば、きっと…】

明日香は新たな水滴を眺めた。
そして１年前にはできなかった不敵な笑みを浮かべた。

もちろんそれも、誰も見ることはできなかった。

－f i n－

伊藤明日香
（２１歳当時）

２０１３年７月１５日。

伊藤、お前は礼儀正しくて優秀で、まだ警察官として日が浅いのに、考え方もしっかりしている。

そんなお前だからこそ、伝えておきたいことがある。

私のキャリア２０年の中で、いまだ品があって礼儀正しい犯罪者を見たことがない。所作が美しい犯罪者も見たことがない。

それら気品を備えた者がいるならば、もはや犯罪のレベルでは括れない気がしている。

おそらく犯罪者本人も、それが罪とは思ってないだろう。

そう。美しい理念すら携えた犯罪者予備軍は、世を変えうる可能性を持った「革命家」と呼ぶべきなのかもしれない。

実際、犯罪者と革命家は紙一重のところにいる。
成功すれば革命家、失敗すれば犯罪者。

ジョージ・ワシントンは、勝ったから初代アメリカ合衆国大統領だが、負ければただの戦争犯罪者で、名前さえ知られることはなかった。

日本においても、２２６事件を起こした青年将校について詳しく知っている人は少ないだろう。失敗したからだ。

もちろん現行を維持したい社会のトップは、理念があろうとなかろうと、革命を絶対に許さない。
現社会にとっては犯罪でしかないので、全力で阻止するはずだ。

だから伊藤、これは警察官の中でも、お前だけにしか言えない。

仮にそんな礼儀正しく気品溢れる犯罪者予備軍に出会ったら、偏見を持たず役割にも囚われず、全力で人として向き合え。

そして見極めろ。
同類のお前なら…、鏡の中にいるお前なら分かるかもしれない。

本当に正しいのはどちらなのか？
お前はどちらにつくべきなのか？

現社会なのか、その人間なのか。　

－f i n－

伊藤明日香
（小学生当時）

伊藤明日香が小学３年生の頃、両親が経営していたコンビニで、少年達４人が万引きをする。

父親が追いかけたところ、１人の少年が国道に飛び出し、不幸にも車にひかれて亡くなった。

世間は少年を殺したとして父親を責めた。

凄まじい誹謗中傷がやむことはなく、コンビニはすぐに潰れる。
直後に父親は自殺。

生活に困った母親と一緒に、親戚達にお金を借りに行くが、どこも貸してくれず。それどころか世間体を気にして「二度と顔を出すな！」と縁を切られる。

母親はその後、精神病院へ入院し、一年後に死亡。

身寄りが無くなった明日香は、弟と一緒に施設に入所。

半年後、弟が突然、消息不明となる。
警察も形ばかりの捜索で見つからず、未だ弟とは再会できていない。

家族が次々といなくなり、天涯孤独へ。
幸せだった生活が一気に地獄へ。

人間の悪意を嫌というほど見せつけられ、日々、明日香の中にとてつもない量の復讐心が蓄積されていった。

【絶対にこの世を、この世の人間達を許さない！】

その思いだけを胸に、明日香は成人した。

まだ犯罪者になっていないのは、ある意味、奇跡とも言えた。

－f i n－

先日、伊藤明日香さんが警察を辞められました。

その理由４つをステラが解説するにゃー

１つ目は、尊敬する上司、泉獅子王丸さんが警察を辞めたから。

おそらく仕事仲間は、これが一番の理由だと思っているにゃー。

ただ、これがあくまで１つのきっかけに過ぎないことは、ネッキャンの皆は薄々感づいているにゃ。

２つ目は、警察の仕事に矛盾や限界を感じたから。

日本は「法律なくして刑罰なし」という罪刑法定主義の原則をとっているにゃ。
簡単に言うと、法律で規定されていない悪事は、犯罪ではないということ…。

大きな声では言えにゃいけど、若い頃の津雲大輔さんは、このグレーゾーンで暗躍して、一財産を築いたにゃー。

今で言うと、AIなど最先端の技術やインターネット上での行いがグレーゾーンになるかにゃ。

毛利さんが毎日、試行錯誤と確認を繰り返しているのは、法律に反しないためだにゃー。（本人談）

おっと話が脱線してしまったにゃ（汗）

明日香さんが苦しんでいるのは、幼少期に体験した悲惨な出来事は、日本の法律で裁くのが難しいからだにゃ。

当てはまる法律自体がない。これは明日香さんには相当のショックだったろうにゃー。

明日香さんは、量刑の不均衡にも憤りを感じてきたにゃ。

量刑とは、犯罪に対して科される刑罰の重さのことで、例えば、窃盗罪は、盗んだ物の価値や値段によって刑罰が異なるけど、それが悪質性と相関するとは限らにゃい…。

『たかが数百円の万引きで…』

世間はあの時、そう明日香さんのお父さんを糾弾したけれど、伊藤さん一家にとっては、とても数百円の痛みではなかったわけだにゃ。

少年法に関しては、言わずもがな。

大義名分はあれど、日本が少年に甘いのは事実だにゃ。
少年法があるせいで、少年犯罪の増加を抑止できていない現実に、明日香さんは耐え切れなかったんだにゃー。

うん、ステラも胸が痛むにゃ。

「少年法がもっと厳しければ、あの少年達は万引きしなかったかも…」と思うと。

さぁ、気を取り直して次に行くにゃ。

３つ目は、右目が殆ど見えないから。

半年前、犯人を捕まえる際に負傷して、それ以来、視力が戻っていない状態だにゃ。

幸か不幸か、通院している病院には白金春香さんがいたので、知っているのは彼女のみということになるにゃ。

春香さんは誰にも言わないという口止めの約束を守ってくれているけど、ウチのメンバーは鋭い人が多いからにゃー…。

４つ目は、　良心の呵責に耐え切れなくなったから。

『不幸な人間を生む悪。それを無くすために警察官になった』

明日香さんは、ずっとそう信じてきたけど、実はそれが全てではなかったんだにゃ。

敬愛する泉獅子王丸さんに、『表向きの正義を利用して、自分の復讐心を満たそうとするな』と指摘されてからは、良心との戦いが始まったにゃー。

どれだけ犯人を捕まえても生ぬるく感じたし、たくさんの犯人を観察しても、自分以上の悪意がある人間はいなかった…。

そして最終的には、自分は警察官にふさわしくないと感じたんだにゃー。

ふーっ、以上となるにゃん。

神よ！　あなたは明日香さんにどれだけの試練を与えるつもりなのですかにゃー？

よーし、このステラを筆頭に、ネッキャンは、これからも伊藤明日香を応援していくにゃよっ！　メンバーの皆、ついてこいにゃー！

みんな

おーーっ！！

－f i n－

いじめる人間は、いじめる人を選びます。

だからあなたが弱いと、選ばれてしまう可能性があるのです。

例えば、うちのコンビニだけ突出していた万引きの多さ。
そしてあれほどまでの誹謗中傷を受けた事実。

くじ引きやルーレットでうちが選ばれたわけではありません。

そう、最初から世間にナメられていたのです。

世に言う「通り魔的犯罪」もそうです。

場当たり的に行動しているように見せて、実は無意識に相手を選んでいるのです。

私は１０年間、現場にいたから良く分かります。
無意識であるが故に、本人さえ気付いていないケースもあります。

ニュースでは絶対に伝えないことです。

人は、意識、無意識に関わらず、いじめの対象を選びます。

その意味を、私はずっと考えてきました。

なぜウチだったのか？　弱いとは何なのかを。

もちろん理想は、いじめのない社会を目指すことです。
いじめられる人よりいじめる人が悪いのも分かり切っています。

ただ、その理想が実現するのはいつなのでしょう？

ですから…今は仕方なく、いじめられない強さを身に着けるしかないと思うのです。

おそらくその「いじめられない強さ」は、あなたの「良さ」を殺すでしょう。心に武器と鎧を着けることで、「自由さ」も奪われてしまいます。

それでも私は、ずっと後悔しているのです。

あんな辛い経験を避けられるなら、初めから武装していれば良かったと。
他者の善意など信じず、最初から周りに牙を剥いていれば良かったと。

いつだって理想主義者は、妄想を語るだけで現実を守ってはくれません。

コメンテーターや評論家は、結果論だけを繰り返して、未来を変えようとはしません。

だから自衛するしかないのです。

悲しいことですが、理性よりも狂気と凶器を身に纏うしかないのです。
全てはいじめられないために。

事実、私は自分を強く変えて以降は、いじめを受けたことがありません。
…というより、凶器を持った狂人には、誰も近付いてきません。

私の結論は以上です。

そしてこれが、あなたやあなたの大切な人を守ることができる一番の方法だと確信しています。

－f i n－

長谷川光

明日香ちゃんは、強くなろうとがんばっているわよね。最終的に何を目指しているのかは分からないけど、やっぱり大変でしょう？

伊藤明日香

私の目標を実現するには、強くなるしか道はないと思うので

長谷川光

私は、道は無限にあると思ってやってきたけど？

伊藤明日香

無限ですか？　私は実証できない言葉遊びをするつもりはありません

長谷川光

例えば、笑顔や愛嬌はどう？　多分、伊藤さんが倒せなかった強大な敵を、斉藤さんや星野さんはそれらを使って勝つ可能性があるとは？

伊藤明日香

あり得…る気はします。ただ、そんなふにゃふにゃした武器を私は使いたくありません

長谷川光

失礼ながら言わせてもらうわね。使いたくないじゃなくて使えない。その武器は持っていないから…

伊藤明日香

…

長谷川光

ごめんなさい、ダメ出しをしているわけじゃないのよ。伊藤さんが選択肢を「強さ」に絞っているのは、迷いを捨てて心の強度を上げるためでしょ？

伊藤明日香

そんなことは…

長谷川光

どんな手を使っても目標を達成したいんでしょ？

伊藤明日香

そうでした。私は何で変なプライドを出してしまったんでしょう…。どんな武器でも覚えなくてはいけないのに

長谷川光

実は私もなのよｗ　もっともっと色々なやり方を覚えなくちゃいけないの。そしてネッキャンにいると色々な人からヒントをもらえるのよ。皆、ちょっとキャラが強すぎだけどね！

伊藤明日香

失礼ながら言わせてもらうと、長谷川さんもなかなかですｗ

長谷川光

おっ、こりゃまた一本とられましたなぁｗ

－f i n－

佐々木拓海

明日香さーん、焼き鮭弁当できましたよー。お待たせしましたー

伊藤明日香

はい…

佐々木拓海

来るたびに焼き鮭弁当ですけど、そんなに好きなんですか？

斎藤千歳

確か、獅子王丸さんに最初に買ってもらったのが、焼き鮭弁当だとか…

伊藤明日香

えぇ。これが初心を忘れない、大切な味なのよ

佐々木拓海

いつもこれ一択って…、飽きないっスか？

伊藤明日香

幸せしかないわ。そんな特殊なお弁当を食べられる人って他にいる⁉

斎藤千歳ソフィ

いないと思います

佐々木拓海

初心を取り戻すお弁当ですか…。羨ましいなぁ。あ、焼き鮭だけは必ずストック残しているんで、いつでも安心して買いにきてくださいねー

伊藤明日香

あ、ありがト…

－f i n－

神楽坂美咲

明日香は優しくされるのに慣れていないため、優しくされると戸惑うのよねー